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「佐野くん、着いたよ。歩ける?」
ハイツの前にタクシーが着いたところで隣の佐野に声をかける。
あの後、ふらつく佐野をとりあえずベンチに座らせて、急いで店に戻り荷物を取ってきた。
山本さんが病欠だということ、明日は療養で休むのでヘルプを回してくれるということをサブの理恵ちゃんに端的に伝えた。シフト上は私は上がっていい時間だったけど、本来ならもっと丁寧に話すべきだった。
でも、体調が悪い佐野を放置できなくて、またメールすると告げて店を出た。
戻ると佐野はベンチに座ったまま軽く頭を押さえていた。明らかに体調が悪そうだった。病院に連れていくべきかと思ったけど、佐野が嫌がった。
「ごはん、行く……」
「いやいやいや、無理だから!」
というやり取りの後、ひとまず家に帰ることになったのだ。
タクシーの中、目を閉じていた佐野が緩く瞼を開ける。彼は気怠そうに頷くとシートに預けていた身体を起こす。私は先に降りて車を降りる彼を支えた。
「タク代……」
「それはいいよ。今は早く休もう」
タクシーが去った後でも律儀に財布を出そうとするから制止する。
いつも奢ってもらっているのだからこういう時くらい気にしなくてもいいのに。
階段を上って佐野の部屋の前に来る。鍵を開けて中に入って電気をつけた。
前に来た時と同じ余計なものがないシンプルな部屋。部屋の奥から待ってましたとルークが勢いよく駆け寄ってくる。
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