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「もう、見ないで」
私は頬を膨らまして、後ろにいる宗介君に言う。
「いいじゃん、別に」
「だって、やりづらいんだもん」
朝食を食べた後、日曜だけど仕事がある私はドレッサーの前で化粧をしていた。
それを背後でローテーブルに頬杖をついて観察している彼。気にするなと言われても、ドレッサーの鏡に映る彼と目が合って集中できない。
今だって、テーブルに身を倒しているけど、眼鏡の向こうからこちらをロックオンしている。
何が面白いのかわからないんだけど......。
いくら注意してもやめないから、諦めた私は視線を背中に感じながら変顔にならないよう注意しながらマスカラを塗った。
最後にリップを塗って唇を擦り合わせると、顔全体のバランスを見る。
うん、まぁこんなものでしょう。
実はいつもより念入りにしたのは宗介くんがいるからだったりする。スッピンを見られても、やはりなるべく綺麗でいたい。
「終わった?」
「うん」
私が振り返って頷くと体勢を崩していた彼はピンと身体を起こす。嬉しそうに手招きするから私はイスから立って、彼の元に歩み寄った。
隣に腰を下ろしたら、そっと頭を撫でられた。大きな手の感触が気持ち良くて、もっとと強請るように彼の肩に頭を載せると、続いてキスされた。
「ん」
ただ合わせるだけだったキスがすぐに深いものになって、合わさった隙間から吐息が漏れる。
でも、急かされるような激しさではなくて、ゆっくりと確かめあうような、じわりと身体の奥から熱くなるような口付けだった。
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