Baby, don't cry

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扉が開いたら唯が泣いていて驚いた。 俺の顔を見て一拍瞠目した後、ポロポロと涙を零していく。 明らかに異常な光景に狼狽した。 「どうした?」 「どうしたじゃないわ!」 俺が声をかけたら、唯の背後からお団子頭が現れた。 葛城とその後ろにはげっそりとやつれた大沢が立っている。 「なんでいんの?」 「「お前のせいだ!」」 二人揃って怒気まみれの同じ言葉を言う。 俺のせい。 悪い予感がより一層濃くなった時、 「全部聞いたんだからね!」 憤然と俺を睨みつけてくる葛城の言葉で、その悪い予感は的中していることがわかった。 大沢は俺の視線を受けて、気まずそうな顔で目を伏せる。 そっか、全部知ってしまったのか。 諦めに似た笑みが零れた。 いつか話さなければと思っていた。 だけど、もう少し先、二人の仲がもっと深まった頃を想定していた。 いや、言い訳だ。 本当はこのままうまくやり通せるかと期待していた。 卑怯で執着にまみれた俺を知られたくなかった。 愛おしい唯の濡れた頬を拭ってやりたくなるが、罪悪感に支配された身体が躊躇して伸ばした手を引っ込める。 「悪いけど、これやるから帰って」 かわりに俺は手に持っていたビニール袋のひとつを葛城に差し出す。 たい焼きが四つほど入っている。 たまたま実家近くに店ができているのを見つけて、唯と食べようと買ってきたものだった。 葛城は赤くなった顔でさらに眦を吊り上げる。 「食べ物で釣られるわけ......」 「唯と話したい」 俺の言葉で葛城の声が止まる。 唯は濡れた瞳を見張ると、涙で艶めく睫毛を伏せてゆっくりと頷いた。
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