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「ありがとうございました」
お辞儀をしてお客様の見送りをする。
時間は六時半。早番だからそろそろ上がる頃。特に問題も起きていないから残業しなくてもよさそうだ。
今日は佐野の会社の祝賀会。ニセ彼女として出席する約束の日だ。
近くの美容院に予約してるからセットして行っても八時には間に合いそうだけど。
......やばい、今更だけどすごく緊張してきた。
この私がうまく演技できるのか。
いや、下手に話したらボロが出そうだからあまりしゃべらず佐野に任せとこう。そう、佐野も自分がどうにかすると言っていた。私は笑顔、ただ笑顔で立っていればいいだけ。
何度もシチュエーションを頭の中で思い浮かべては冷や汗をかく。行きたくない。でも、すっぽかすわけにもいかない。
お、おなかが痛くなってきた。
キリキリ痛み出す胃を押さえつつ、そろそろ帰るべくみんなに声をかけようとした時だった。
「何やってんの!あんたは!」
BGMに混じって店内から聞こえてきた怒声に私は振り返る。レジ付近でサブの理恵ちゃんが新人の山本沙綾を睨みつけていた。
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