氷の女王

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「まぁ!可愛らしいお嬢さんだこと」 扉を開けた先に立っていた人は私を見てにこりと愛らしく微笑んだ。 私は部屋に一歩踏み出すこともできず、ただ硬直して立ち尽くすのみ。 「斎藤ちゃん、入って」 「あ!?は、はい!」 花山朱里社長に手招きされて我に返るとその部屋に足を踏み入れた。 志帆さんとの同居生活二日目。 私は月一開かれる店長会議のために『fleur』の本社にいた。 関東地区の直営店舗だけでも、店長全員が揃うと圧がすごい。 十年以上のベテランから私みたいな新米までずらっと並んで座る。 前に設置されたテーブルには朝比奈部長、その横に第一課の鳥居課長とSVたちが並ぶ。 三十半ばの若さで営業部を取り仕切る鬼部長の横に控える人たちのほとんどの顔が死んでいる。 私の担当の真鍋さんもいつもより暗い表情。 四月から朝比奈部長に変わってかなり絞られていると前店に来た時に漏らしていた。 売上報告がある店長会議は私も憂鬱だ。 売上が達成できていない店長はやはり肩身が狭い。 うちは新店舗で集客はまだあるから達成できているけど、いつまで続くか。 研修とは違い胃がキリキリ痛むのを感じながら、私は端っこの席で極力目立たないように座った。 そんな重々しい会議も午前中のみ。 張り詰めた空気の中、壁掛けの時計が十二時を指したところで朝比奈部長が「じゃあ、各々頑張るように」と締めの言葉を静か言った。 みんながほっと息をついて礼をすると同時に会議室の扉が開く。 「終わった?」 顔を覗かせた社長に気を緩ませかけていた私たちは慌てて姿勢を正した。 「何ですか?」 「あなたじゃないの」 訝しむ朝比奈部長にそう返して、社長はキョロキョロと見回す。 そして、隅の席にいた私にロックオンした。 「斎藤ちゃん、ちょっと」 「え?わ、私ですか?」 「そうそう、こっち来て」 社長がドアから半分身を覗かせて手招きする。 一応周りに気を遣っているのかちょっとだけ小声。 でも、みんな見ているからあまり意味がない。 め、目立っている。 下着の販売は女の世界だ。店長の間で派閥みたいなものもある。 なるべくいざこざに巻き込まれないよう地味に生きている私に突き刺さる視線。 額に嫌な汗が噴き出す。 だけど社長を無視するわけにもいかず、荷物を纏めると周囲に頭を下げてそそくさと出口に向かった。
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