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「なるほど。怒っちゃったのね」
私はローテーブルに突っ伏したまま、志帆さんに頷いた。
あの後、トボトボと帰った私の死相に志帆さんは開口一番「ケンカした?」と首を傾げた。
普段淡白な彼女にしてはあまりにも優しい声だったから、それを引き金に私の涙腺は決壊してしまった。
それから訥々と事の経緯を話した。
蓮さんの事情を大体知っている志帆さんは私の拙い説明でも全体図が見えているかのようにすぐ理解してくれた。
「わ、私が無神経にしつこく詰め寄ったから」
「そんなに気にすることないと思うけど。ちょっと傷口が開いて防衛反応が出たのよ」
志帆さんが言うと、頬に湿ったものがつんつんと触れてくる。
膝の上に乗ったルークが突っ伏している顔の隙間を下から鼻先を押し付ける。
その仕草に私はようやく顔を上げると、ルークが「にー」と心配そうに鳴いた。
「猫もね、怪我して痛くてもなかなかそういう仕草見せないの。野生の本能から弱みは隠すのと同じで、傷口を唯ちゃんに触れられて、思わず振り払っちゃったのよ」
「私、謝って......」
「今は何を言っても反応ないと思うわ」
スマホを手にしようとした私に志帆さんの言葉がグサリと刺さる。
思わず呻いてまたテーブルに突っ伏しかけたら、志帆さんが私の頭をそっと撫でた。
「ただ、今拒絶していても、絶対戻ってくる。孤独な分、優しくされた記憶はわりと生きるのよ。それまで放っておいて大丈夫」
無表情に近いけれど、微かに笑みを浮かべて言う彼女の声は小さいのに不思議と力強い。
根拠はないのに志帆さんが言うと少し安心してくる。
「......はい」
私は鼻をグズグズ鳴らして頷く。
すると、膝の上のルークが慰めるように涙で濡れた頬をペロリと舐めてくる。
「おい、俺だけ全然話が見えねぇんだけど」
向かい側に座るお兄ちゃんは一人不機嫌そうに腕を組んだ。
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