呪い

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なぜ、タイミングよく真鍋さんやお兄ちゃんたちが現れたのか。 それは、志帆さんのおかげだった。 出版社の人たちとの会食中、不意に目の前に映像が浮かんできたらしい。 それがまさに部屋で暴漢に私が襲われているもので、断片的で日にちも定かではないけれど胸騒ぎがして、志帆さんはトイレに行く振りをしてお兄ちゃんを呼び出した。 内容を告げられてお兄ちゃんが私に電話をかけてみたけれど出ない。 どうしても志帆さんが今すぐ帰るというので、仮病を使って二人で抜けてきた。 「レストランからは唯のところまでちょっと距離があったからな。一刻でも早く無事が知りたいって時に佐野姉が『真鍋に連絡しろ!』って言って」 警察に犯人を渡した後、状況確認と部屋の鑑識が終わってようやく事の顛末をお兄ちゃんが語り出した。 男は二十代前半の窃盗犯だった。何度かこの周辺を空き巣に入っていて、今日は私の部屋を狙って入った。そこに私が帰宅して出くわした。 お兄ちゃんの背負い投げの後の絞め技が効いたのか、警察が来るまで戦意消失という感じでネクタイで両手を拘束された男は廊下の端で項垂れていた。 まだ犯行前で部屋は荒らされてはいなかったのが不幸中の幸いだった。 割れたガラスを片付けてとりあえず段ボールで塞いだ。 大家さんが明日にでもガラスは変えてもらうと言ってくれた。自分たちは悪くないのに、しきりに私に頭を下げて謝る姿に逆に申し訳なくなるほどだった。 その部屋で私たち四人はローテーブルを囲んでいた。 時計はもうとっくの前に深夜を回って明け方のほうが近い時間になっている。 「いきなり『武装していけ』っていうから、慌てて学生時代の竹刀持ってきたのに活躍なかったな」 真鍋さんが傍らに置いた竹刀を見て苦笑する。高校時代、彼は剣道部だった。主将を努めていたから腕が立つ。 お兄ちゃんと真鍋さんは志帆さんの能力を学生時代から知っていたらしい。 それも含めて、少しでも私の家に近い人物で真鍋さんに白羽の矢が立った。 正直、一分でも遅かったらどうなっていたか。 考えるだけで今でも震えがきて、私は自分の身体を抱き締めた。
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