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アレルの思惑
タカオは行ってしまった。建物の正面玄関の厚い扉の両端にある、小さな窓から覗いていたアレルはそう言いたそうな表情をしていた。
濃い緑に飲み込まれてしまいそうな細い道に、タカオの後ろ姿が消えていく。
「なんて頼りない後ろ姿なのかしら」
呆れたように言うと、ため息をこぼした。タカオが見えなくなると、アレルは倉庫に行く為に来た道を引き返す。
どうやら倉庫に行かなければならない理由があるようだ。途中、旅支度を整えた小さな少年とすれ違った。アレルは気になる様子で一度振り返ったけれど、それ以上の事が倉庫にあるようで、また足早に歩いていく。
倉庫に着く前にガラともすれ違ったが、ガラはいつものように偉そうに体を揺らして歩いている。アレルは愛想の良い笑顔を向けると、ガラは片方の唇を上げて鼻で笑っただけだった。
アレルが倉庫に着くと、扉は少し開いていた。タカオがきちんと閉めて行かなかったのだ。扉の隙間から見えるたまごに異変は見られなかったが、アレルは何かを確信したようにたまごに近づくと、たまごに両の手を置いた。
「やっぱり、温かいわ」
たまごはアレルが企んだ通り温かく、小さな鼓動まで聞こえた。アレルは1人、微笑みを浮かべていた。
「起きなさい、サラ」
アレルがそう言うとたまごは小さな音を立てたかと思うと、表面に沢山のひびが入った。中のサラが殻を破ろうと必死でもがいている。
その様子をアレルは微動だにせず見つめていた。誰に知らせることもなく。
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