夜の声

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我慢の限界がきたのはそれから一週間後のことだった。 テレビをつけている間はいい。 その声は極端に大きくなることもなく、ただひたすらずっと呟くようにしか聞こえてこないから。 でも静かになると途端に癇に障る。 眠れない。 眠れないからイライラする。 苛立ちが心を荒ませ、日常生活にも支障が出てきた。 入居から十日目。 とうとう俺は隣人の部屋に直接怒鳴り込むことにした。 いや、怒鳴り込むんじゃない、懇願に近い気持ちで。 頼むから静かにして欲しい。 一日でいいから静かに眠りたい。 このままじゃおかしくなってしまう、と。 しかし、俺の訴えを聞いた隣人は、奇妙なものを見るような顔で俺の事を見つめ、その小太りな体を玄関ドアに隠した。 オドオドとした表情と、隣人の部屋から漂う臭気に我慢できなくて、ドアを蹴り飛ばしてやろうと思った頃、男がぽつりと言った言葉に体が停止する。 「子供の声とか女の声とか…… なんか君さっきから変な事言ってるけど、僕、ずっと一人だよ。 ここで暮らし始めてから今まで、誰も部屋に来たことないし。 あ、君が引っ越しの挨拶に来てくれたっけ。 あれが三年ぶりぐらいだったかなー」
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