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きっと、ここに語られなければ彼らの息づかいに、彼らの笑い声に、彼らの友情に、耳を傾けることはなかっただろう。
誰からも気付かれずに消えて行くはずだった。
皆様には今から、彼らの生きた小さな世界の話をご覧頂こうかと思うのだ。
1
テルはベランダの物干し竿に吊された照る照る坊主である。
照る照る坊主の「テル」
その何の捻りも、おそらく何の意味もないであろう「テル」という名前は、彼の産みの親である、なつみちゃんが名付けてくれたものだ。
なつみちゃんは、この春に小学校に入学したばかりの、ランドセルを背負う立ち姿が愛らしい7歳の女の子。
彼女はテルの居座るベランダの部屋の住人である。
なつみちゃんは、ベランダの彼を「テル」と呼ぶ。
それがテルの知っている彼自身の名前の由来だった。
つまりテルは、その安易なネーミングである自分の名前の由来について、何も知らなかったのだ。
ただの一点だけ、その名前について気掛かりなことがある。
それは、なつみちゃんがまだ子供だということ。
もしかすると、なつみちゃんが「テル」と呼ぶものは、照る照る坊主全般を差す言葉なのかもしれない。
たびたび、そう感じることがあった。
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