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白一色に統一された体は、主義、主張もなく存在感に欠けていいるように思えた。
歩道を歩く人々は、色とりどりの服を着ている。
ベランダには、なつみちゃんとその家族の彩り豊かな洗濯物が干されていた。
(テルのように、真っ白な服を着た人なんていないじゃないか。)
そう思うテルは、その無個性な白い体を少し気にしていたが、かと言って、照る照る坊主としてベランダ越しに街並みを眺めるだけのテルにとって、現状変更が叶うはずもない。
やがてテルは、華やかさに素直に憧れつつも、自分は人間ではないのだからオシャレで有る必要もないかと、そう言い聞かせて、ベランダで過ごす退屈な毎日をどうにかやり過ごしていたのだ。
そんなテルには、町並みを眺める以外に大切な役目がある。
それは──照る照る坊主であるのだから当然の責務であるといえるが──雨を降らせないことだ。
当初、なつみちゃんがテルをベランダに送り出した際にこう言っていたのを覚えている。
「テルはね、鳥さんのためにずっとお空をいい天気にしなきゃダメなんだよ。これはおまじないなんだから。テルはね、鳥さんの巣を守るの。わかった?」
なつみちゃんはテルを見上げて言う。
まだ物干し竿に手が届かないなつみちゃん。
そんな彼女の代わりに、ママがテルを物干し竿に括り付けていた。
「わかったよ、なつみちゃん。僕は鳥さんの巣をぜったいに濡らさない。約束するよ」
テルは、なつみちゃんの目を見て言う。
返事がなかった。
なつみちゃんとママは、テルを物干し竿に括り付けると早々と部屋の中へ入ってしまった。
どうやら照る照る坊主の声は、なつみちゃんには聞こえないらしい。
なつみちゃんのママも同様に反応がなかった。
そうか!テルの声は、人間には聞こえないのか。
その時、初めて人間と会話出来ないことに気が付いた。
しかしながら、約束は約束だ。
きっと守って見せよう。
以来、テルは彼女の言い付けをずっと守っている。
2
コハルは疲れていた。
冬の間を過ごした温暖な南の地を離れ、この春、遥々、海を渡って夫と共にこの北の地へと辿り着いたのだ。
コハル自慢の艶のある漆黒の尾羽は、今や砂埃に汚れており、艶をなくした尾羽も少しささくれ立っている。
休んでいる暇などない。
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