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「やっぱ‥うまくいく訳‥ねぇよ。」
バチが当たったのだろう。俺は裏切り者として、背後から斬られた。
意識が朦朧とする中、俺達の後ろに流れる川へ落ちてゆく。新八と左之の俺を呼ぶ声が遠く聞こえる。
「‥‥仲間が‥‥心配か?‥‥お前の持つモノを‥ひとつ奪う代わりに‥仲間のもとに帰してやる‥‥」
何処かから俺に語りかける声がする。だが‥そんな調子のイイ話があるはずが無い。
しかし、欲を言えばまたあいつらと会いたい。どんな形でもいい生き返りたい。
「‥どうせ、失いかけた命だ。なんでも持っていけよ‥」
「平助、無事かぁ~。」
俺を抱きかかえて、左之が鼻水を流しながら泣いている。そばには、新八の姿もある。
「あれ‥俺、生きてんだな‥」
閉じていた目を開き、月明かりの中己の命があることに気付いた。
そして、俺が失ったモノとは‥
身につけていた刀と侍である自分。
侍として許されないボケをかました俺は侍として、武士(おとこ)として生きる道を失った。
「なぁ‥俺、これからどういきりゃあいい?こんなナリじゃあ屯所に置いてもらえねぇよ‥」
笑うしかねぇ。ボケたのは自分なのに、自分で笑うしかなくなる。
「馬鹿野郎。俺が娶ってやるよ。」
左之がまっすぐに俺の目を見つめ、真剣な眼差しで言う。
「左之ォ、お前、奥さんがいるじゃんよ。ダメダメ、俺にしときなって、平助。」
頬に涙が伝わってくる。どんな形でもこいつらに再び会えたことに感謝したい。そして、俺の居場所になってくれることにも。
「あんがとーな、二人とも。お前らにもう一度会えて、すっげえ嬉しいよ。」
新八と左之に手を引かれながら、夜道を屯所に向けて歩いて行く。
屯所に戻ったら、心配かけた近藤さんや土方さんに顔見せよう。
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