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「心外だなー、全く……。秀生くんって、案外疑り深いよね」
男性は頬をぷくっと膨らまして、信用されなかった事に対し怒りを表す。その表情がなんだか面白くて、不謹慎ながら僕はクスクスと笑いを零してしまう。
「あ、秀生くんが笑った!」
男性は僕が笑った事に喜び、今度は満面の笑みを浮かべた。コロコロと表情が変わる男性に、また笑いが込み上げる。なにが面白くて笑っているのか僕自身、分からなかった。でも、どうしてだろう。嫌な気分にはならなかった。
少しの間、2人して笑いあった後、僕は改めて男性の姿に眼を向ける。
癖っ毛なのかワックスなどで髪を立てているのか明るい茶色の髪は跳ねており、髪の毛よりやや暗い茶色の瞳に何故か不自然を感じた。服は燕尾服と言う奴だ。年齢は20歳を超えているように見えるが、実際は何歳なのか分からない。
「ねぇねぇ、秀生くん!僕の名前、教えてあげる!」
そう言えば、名前聞いてなかったや。まさか、また逢うなんて思っていなかったので、聞く必要性が無かったと言うべきか。
「僕はね、神城 煙理“カミシロ ケムリ”!好きな事は人間の願いを叶える事!嫌いな事は退屈な世界!」
……本当におとぎ話に出てきそうな設定。
純粋にそう思ってしまった。いや、好きな事が願いを叶える事とか非現実的すぎて、ツッコむ気にもなれない。かと言って、笑い飛ばせる空気でもなかった。
「色んな人間の願いを叶えてきたんだけど、秀生くんみたいな願いは初めてだったんだー」
だから叶えようって思ったんだと付け加えた煙理の手には、無くしたと思っていたあの箱があった。僕が眼を丸くしたのを見て、意味ありげに頬を緩ませる煙理。
「これ、無くしちゃ駄目だって言ったのに。全く、おっちょこちょいなんだから」
「…………っ」
何故だろう。煙理のこの笑顔に恐怖を覚える。不自然に輝く茶色の瞳の奥に、怒りの色がちらちらと映りこんでいるような。とにかく、妙な威圧感がある。
「……あ、ごめんね」
そう言った煙理はまた笑った。今度は怖くない笑顔だ。
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