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「とりあえず、はい!」
煙理は手に持っていた箱を僕に渡す。僕は渡された箱を見つめながら、ふと口を開いた。
「……本当に願いを叶えられるの?」
口から零れた言葉に僕が驚いてしまった。なにを言っているんだろう。いや、別に信用していなかった訳ではない、あくまで確認だ。自分にそう言い聞かせる。
煙理はパァッと眼を輝かせ、何度も頷いた。まるで、その言葉を待っていたと言わんばかりに。
「秀生くんが本当に強く望めば、僕は君の願いを叶えてあげられるんだ」
なんか引っかかる言い方だが、僕は気にも止めなかった。それどころか、更に口は勝手に動いていた。
「……じゃあ、僕の願い……叶えてくれるの?」
縋るような声色で尋ねる。煙理は眼を細めて、口元に弧を描いてみせた。
「それが君の望みなら」
試すような口調。僕はグッと拳を握り締め、煙理の瞳を見据える。
それが本当ならば、叶えてほしい。僕の人生はあの日を境に壊れてしまったんだ。だから、つまらない人生にならないように、元凶を断ち切らないといけないんだ。
「人生を、やり直したい」
僕ははっきりと告げた。煙理の瞳が揺れる。そして、おもむろに指をパチンと鳴らした。
すると、僕の眼の前に現れたのは僕の筆箱に入っていたカッターナイフ。僕に見せ付けるように空中でゆっくり回転している。
「それが君が望んだモノだよ」
なにが言いたいのか分かった気がした。右手でカッターを掴み、カチカチと新品の刃を晒していく。
そして、古傷と生傷が入り混じった左手首に刃を当てる。煙理はただ見ているだけ。正に傍観者と呼べる存在。
「要するに……こうすればいいんだね」
僕は力を込めてカッターを引いた。いつになく痛みが強く感じた。白いシーツに赤がよく映える。
すぐに目眩が僕を襲った。本当にこれでいいのかと疑問に思ったけど、恐らく大丈夫。だって、煙理が笑っているんだもん。
「…………」
意識がシャットアウトする前に煙理が口を動かしていた。だが、僕は聞き取る事が出来ず瞼を下ろした。
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