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ジリジリと目覚まし時計がやかましく鳴る音に意識が浮上する。うーんと寝ぼけた声を上げて、時計を探す。
……あ、あった
指が目的のモノに触れた。そして、静寂が戻った。再び、眠りに着こうを思った瞬間、ぼやけた頭は違和感を覚えた。
……僕……病院に居たんじゃ
眠気と戦いながら重い頭を上げ、辺りに眼を向けると広がったのは見慣れた部屋。使い慣れた木製の机と紺色のリュックサック、頻繁に見る訳でも無い液晶テレビ、着替えを仕舞っているタンス、お気に入りの曲を流す為に買ってもらったCDコンポ。
全て、僕の部屋にあるモノ。
「っ!なんで……!」
ベッドから飛び上がって、時計を見てみる。デジタル時計に表示されていたのは7時2分と9月16日。ここまでは良かった。
「……え?」
だが、西暦は2年前だ。見間違えかと思って眼をこする。改めて見てみるが、それがはっきりと浮かび上がっただけ。
夢を見ているんだと思って手の甲をつねる。痛みが現実だと言った。それどころか、手首の傷跡が消えている。
巻き戻っている。時間も僕自身も。
「……嘘」
まだ信じられない僕は部屋から飛び出した。リビングのテレビは今日の天気予報を伝えている。それを無視して台所を覗く。母さんが朝食を作っている。その隣には、おこぼれを狙う三毛猫のミケ。
「あら、秀生。今日は二度寝しなかったの?雨でも降るんじゃないかしら」
僕をからかう母さん。僕はなにも言わず、洗面所を見る。誰も居ない。僕が捜している人が見つからない。
「もうすぐ、ご飯出来るから待ってね」
母さんがのんきに言う言葉を聞き流し、静かに溜め息を吐く。時間が巻き戻ったと言えど、全てが巻き戻ったとは限らないのだと思った途端、その考えは間違えだったと気付かされた。
「お、珍しい。秀生が起きてるじゃないか」
バタンと扉を閉め、僕を見つめる視線。僕の眼の前には2年前に事故で亡くなった父さん。
僕は大きく眼を見開いて、ただ立ち尽くした。
「と、父さん……っ!」
感動のあまり、父さんに飛び付いた。父さんが慌てた声を出したが、冷静に僕の頭を撫でる。
「どうしたんだ?急に……」
父さんの声が温もりが、声が、においが懐かしい。僕は甘えるように父さんに頭をぐりぐりと押し当てる。
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