3人が本棚に入れています
本棚に追加
「おいおい……まさか、父さんを抱き枕かなにかと間違えてる訳じゃないだろうな?」
父さんは僕の頭を撫でながら、呆れたように呟く。僕は一度深呼吸をし、笑みを浮かべて父さんを見る。
「そうかもね!」
「あ!お父さん、早く朝ご飯食べて!会社に遅れるわよ!」
母さんが慌てた様子で父さんに食事を促す。僕は名残惜しい気を押し込め、父さんから離れた。父さんは大丈夫だよと言いながらテーブルに座り、用意された朝食を口にした。
同じように僕もテーブルに座り
「……ねぇ、僕の分は?」
僕の朝食が無い事に疑問を感じながら、母さんに尋ねてみる。
「大丈夫、あるから心配しないの」
そう笑いかけてくる母さんの表情が眩しく見えた。父さんが死んでから、笑わなくなってしまった母さん。その母さんが今笑っている。新鮮だが懐かしい。
僕の眼の前に置かれたのは、フレンチトーストとベーコンエッグ。
「さぁ、2人共急いで食べなさい!」
僕らに喝を入れる母さん。僕は置かれた朝食を胃に詰める。父さんはのんきに新聞を読みながら、お茶を啜っている。
「お父さん!!」
「!?」
母さんの声に驚いて、父さんの肩が跳ねる。相変わらず、父さんはマイペースな性格だなぁとクスクス笑いながら、僕は牛乳を流し込む。
テーブルの陰から、ミケが物欲しそうに父さんを見つめている。それに気付いた父さんはミケの前にそっとウインナーを置く。動物好きなのも変わっていないみたいだ。
そんな事をしている内に僕はフレンチトーストをペロリと平らげた。
「ご馳走様ー」
「は、早いな秀生……」
「え、父さんが遅いんだよ」
「いや、そんなハズは」
「いいから、早く食べなさい!!」
「……はい」
シュンと落ち込む父さん。この家族のやり取りがあまりにも懐かしい。僕は皿を片付けて、部屋へ戻った。
本当に……戻ったんだっ!
バタンと閉めた扉に凭れて、嬉しさと喜びを噛み締める。改めて、煙理に感謝する。
「でも……」
このまま、同じ日常を過ごせば、父さんは交通事故に遭うのでは?僕がどうにか出来る事なのかは分からないが、なにかしらアクションを起こせば、未来が変わるのでは?
ぐるぐると思考が回る。父さんが死なない方法を探さないと。
「もし、駄目だったら……」
その時は、また煙理に力を貸してもらおう。
最初のコメントを投稿しよう!