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それから、僕は中学校へ登校した。普段なら、高等学校へ向かうハズなのに、なんだか留年した気分だ。
「お、秀生ー!おはよう!」
「おはよっ、秀生♪」
後ろから僕の肩をポンッと叩いて、笑いかけるのは1人の少年。そして、その後ろで控えめな笑顔を向ける少女。
「俊“シュン”!鈴“スズ”!」
「相変わらず、ボケーッてしてんなー」
俊は歯を見せて笑う。彼は僕の幼なじみ、炎天下で汗を流すスポーツ少年だ。焼けてしまった肌と爽やかな人柄が女子に受けている、いわゆるイケメン。
「でも、それが秀生でしょ?」
鈴は僕を見て小さく笑う。彼女も僕の幼なじみ、本名は鈴乃“スズノ”だが、みんなからは鈴で親しまれている。大人びた雰囲気と愛らしい笑顔を持つ彼女はみんなから好かれている。
そして、僕自身も彼女に想いを寄せている1人である。
「なんだよ、鈴。その言い方……まるで、僕がいつもボーっとしてるって言ってるみたいじゃないか」
ジトッとした視線を鈴に浴びせると、俊が僕の両頬をグイーっと引っ張った。
「この顔でなに言ってんだよ!」
「いらい!っいらいから!!」
力加減が分からない、この脳みそ筋肉は容赦なく僕の頬を引き伸ばす。普通に痛くて、目尻に涙が溜まる。それを止めるのは、鈴の役目。
「俊、秀生が痛がってるからやめてよ」
「へいへい」
パッと離されても頬の痛みは簡単に引くわけでもなく、僕は両頬をこする。当の本人は悪気は無いらしく、クラスメートに手を振って大声でおはようとか言っている。
あー、痛い……
2年ぶりに受けた歓迎は痛かった。大丈夫?と尋ねてくる鈴、君は天使だよ。
それに比べて、俊の奴は……
無性に腹が立った僕は、警戒心もなにも持たない俊の足を踏む。つま先のみを狙う感じで。
「ふえあっ!!」
俊の奇声が上がる。心配していた鈴が今度は驚いた表情を見せる。やってやったと言わんばかりに、僕は俊の前を走り抜け、笑いを零す。
「秀生、おまっ!」
廊下を走る僕を俊が追いかける。どの道、逃げ切れる事は出来ないのだが、僕は少しの逃走劇を楽しんでいた。
こんな幸せなやり取りが、再び出来るなんて思ってもいなかったから。
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