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家に着くと、母さんが出迎えてくれた。僕はただいまと告げて、すぐに部屋にこもった。
リュックは床に置き、ベッドに身体を沈め眼を閉じる。
さて……僕はどうしたらいい?
父さんは丁度1ヶ月後に交通事故に遭う。それが分かる僕は、父さんを助けたいから、ここに居る。だが、根本的な問題。どうすれば、父さんが助かるのかいくら考えても分からない。
煙理に聞いておくんだったなぁ……
本当に叶えてしまった煙理にも多少の疑問が残るが、これとそれは別。
今まで解いてきた問題より、遥かに難易度が高いこの問題の解答を懸命に探す。
まず、どこに焦点を当てよう?……交通事故の原因?それとも、父さんが交通事故に巻き込まれた理由?でも、原因が分かったところで、防げるのかって話になる……
「いやー、なんか凄く悩んでるねー。秀生くん」
僕の思考に割って入ってきた声。僕は眼を開いて、上半身をガバッと起き上げる。そこには、煙理がニコニコと笑いかけながら、空中を漂っていた。
「け、煙理……さん」
また突然っ……!
「別に煙理でいいよ」
あと、秀生くんが帰ってきて、すぐここに来たと煙理は答えた。相変わらず、心を読む人だ。
「じゃあ……僕が悩んでる事も分かるの?」
「そりゃあ、もちろん……」
そう答えた煙理は、僕なんて眼中に無いのか、カーテンの閉まった方向で指をクイクイと動かしていた。まるで、見えないなにかを操作するように。
「えーっと、秀生くんのお父さんが亡くならない方法だっけ……?んー、難しい事考えるね」
煙理がこちらを向いて、小さく溜め息を吐き出すところを見て、本当に難しい事を考えているんだと自覚した。
「…………」
思わず、うなだれる。
今更ながら、煙理に父さんを生き返らす方が良かったんじゃないかって思い直す。そうすれば、全て解決すると考えてしまった。
「秀生くん……君が思ってる程、命ってモノは簡単なモノじゃないよ」
煙理の声色が変わったのを感じ取り、ゆっくりと頭を上げると煙理の表情が無くなっていた。
「け、むり……」
僕が思った事が、癪に障ったんだと直感で分かった。だって、煙理の瞳が赤く染まっていて、別人のように鋭い眼光を僕に突き刺していたから。
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