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「僕以外は想像してないでしょ」
男性は優越感に浸っているのか、またニコニコと笑っている。と言うより、この状況はどうなっているんだ。
「空に浮いてるよ、僕と君は」
「……さっきから思ってたんだけど、僕の心読んでる?」
僕は不快感を感じつつ、投げかけた。男性はにんまりと笑いながら肯定したのち、僕に自分の身体を見せ付けるように両手を広げた。と同時に、僕の身体は再び落下した。
「ひっ!?」
自ら飛び降りたと違って、僕の覚悟は薄れていた。グングン迫る地面に恐怖する。知らず知らず、両眼に涙が溜まっていき、顔が歪む。
「あはは、ごめんごめん」
男性の声が耳に入った。そして、僕の身体はまた空中で止まった。
恐怖からか、僕は上手く息が吸い込めなかった。身体が酸素を取り込もうと必死に呼吸を促す。全身から嫌な汗が流れたみたいで、服が肌に張り付いて鬱陶しく思えた。
「大丈夫?顔、真っ青だよ」
誰のせいだと思ってる!そんな気持ちを込めて、男性をギロリと睨み付ける。相変わらず、男性は笑ったままだった。
「ねぇ、秀生くん。君、願ったよね?」
なんで名前を知ってるんだとかもう聞く気になれなかった。正直、眼の前に居る男性に警戒心すら失っていた。それほど、僕に余裕は無かった。
「ね、願ったって……なにを?」
覚えが無い、こんなへんてこりんな男性に願った覚えなんて。へんてこりんは酷いなぁと、おちゃらけた男性は僕の手を握り締めた。
「人生をやり直したい、って思ったよね」
「え……?」
「君は願った。人生をやり直したい、って」
おちゃらけた雰囲気とは一変して、真剣な声色で男性は力強い言葉で再度繰り返した。それを聞いて、思い当たる節があった。
数日前、筆箱にあったカッターで手首を切った際に、人生をやり直せないかなぁなんて空想じみた事を呟いていた。
今思えば、馬鹿馬鹿しくて笑えてくる。
「あ、あれは……」
気の迷いだと弁解しようとした瞬間、彼は妖美に笑った。
「叶えてあげるよ、その願い」
「……え?」
先程から、まともに言葉を発してない。出て来るのは衝撃と驚きによる言葉ばかりだ。
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