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しばらくして、僕の意識はゆっくりと浮上した。ピッ、ピッ、と一定間隔で鳴る機械音が耳を刺激し、明るい光を瞼で捉えた。
「ん……」
薄く眼を開くと、僕の手を握り締めている母さんが居た。
「秀生……?秀生!?」
僕が目覚めた事に驚愕し、ヒステリックを起こしたみたいに叫びだした。
「秀生!母さんが分かる?!痛いところとかない!?」
母さんの瞳から涙が落ちるのを、ぼんやり見ながら頷いた。良かったと安堵する母さんをどこか他人事のように眺める僕。
死ななかったんだ。いや、また死ねなかったんだ。こうして、何度か自殺を図ったが、どうしても上手くいかなかった。今回は上手くいくと思ったんだけど、意味の分からない男性のせいで台無しだ。
そう悪態を吐いてみるが、本当は生きている事に安堵しているなんて気付きたくなかった。
「かあさん……ごめ、ん」
いつも貴方を心配させてしまっている僕を許さないで下さい。
紡ごうとした言葉を呑み込み、握られている手を弱々しく握り返す。母さんは首を振って、私こそごめんなさいと優しく呟いた。
母さんは僕が自殺しようとしている理由を知らない。だから、自分が息子を支えられなかったと自分を責める。それを知っていながら、自殺しようとする僕は大馬鹿野郎だ。
「今、お医者さん呼んでくるわ」
母さんは涙を拭いて、僕のもとを離れた。必然的に独りの空間が産まれる。
眼が捉えられる範囲の視界で周りをぐるりと見回してみたが、テレビとかでよく見る至って普通の病室だ。近くには今時には珍しいブラウン管のテレビが置いてあり、真っ白な壁が広がっている。
ただ、違和感を覚えた。普通に見えた病室の窓の外側に鉄格子がある。
そして、僕の片方の手首に手錠がはめられていた。どこに繋がれているのかと眼で追ってみると、ベッドの脚に繋がれている。そのせいで、移動する距離が制限されている。
……あ、なるほど
精神病院だと気付くのに時間はかからなかった。
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