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窓を叩く優しい雨のノックで、少女は目を覚ました。
……違う。
雨のノックで目を覚ましたというより、目を覚ました時には雨が降っていた。
(……雨 か)
ゆっくりと起き上がり、少女はため息を吐いた。
少女は雨が嫌いだった。
雨が好きな人も中にはいるかもしれないが、単純な“好き”とか“嫌い”に少女の“嫌い”は分類されない。
久しぶりに見たような気がするが、相も変わらず嫌な夢だった。
思い出したくはない、かといって忘れられもしない。寝ても覚めてもというわけではないが、心には大樹が深く根を張るように傷が残っている──そんな“夢”。
“夢”といってもそれは所詮“過去の幻影”が見せる“過去という現実”。
しかし、忘れたいのに忘れられない。
逃げられるのなら逃げたいのに、それすらも叶わない。
【学院島】に引っ越してきても、それは変わらなかった。
友人と付き人のようなお姉さんに、何度も何度も、数え切れないぐらいありがたいどころじゃないくらいに慰められ励まされてはきたが、それで済ませられたならどんなに気が楽だろうか。
外は雨が降り続いている。だけど、雷鳴や稲光はない。……ひとまず ホッとひと息。
洗面所で顔を洗ってすぐ目の前の鏡を見ると、暗い顔をした自分が見つめ返していた。
濃い黄色の髪と前髪の一部が固まったように見える二組のアホ毛は、明るい印象を与えるかもしれない。しかし細く鋭い瞳やきゅっと閉じられた口は、それとは対照的に無口で暗い印象を与えるだろう。
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