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【フフォード王国】王都、【ラ・ヴェニュス】。
鍛冶師の腕が光る、鉄を熱いうちに打つ音。露天商の張り上げる競りの声。値を負けてもらおうと店の人と交渉する人の声。道端で談笑する人々の声。遊びまわる子どもたちの笑い声などなど。
今日も今日とて、様々な人々の色々な音声が街の景色に賑やかな色合いをつけていた。
そんな王都の街並みに囲まれて、聳えるように建っている王城。正面から見たら3棟横並びに並んでいるように見える──厳密には中央の棟が他の2棟よりも少し高く、そして少し奥まった位置に設えられている──、頭に尖塔系の笠を被ったようなデザインの建物を主とした王城。
王都の街並みからかけ離れている存在のようにも見えなくはないその王城の一室で、1人の少女が窓から外を眺めていた。
先の尖った耳にかかる程度にまできれいに短く切りそろえられた桃色の髪に、小動物のように円い橙色の瞳。
今でこそTシャツやフレアスカートといった王族らしからぬ極々普通の(?)庶民的な格好をしているが、彼女こそが【フフォード王国】第69代国主──ルミリエル=F=フフォードである。
雨を降らす灰色の空からは、かすかにだが青空が見える。
魔物の出現、そしてそれらの増加に伴って、王都に限らず街や町といった各都市にも結界が張られるようになったが、それで安全が完全に保証されたわけではない。
物語でいうところの序章のように思える。
これから先も、まだ何かある気がしてならない。
『姫様、失礼致します』
2、3度扉が叩かれ、1人の少女が入ってきた。自然と、振り返るルミリエルの眉根がすぅ~っと寄る。
「ロ~ディ~? 何度言えば解っていただけるのですか~?」
扉を閉め、ロディと呼ばれた少女は中にいるのがルミリエル1人だと知ってため息を1つ。
「リュミィこそ、仕方ないってなん──りゅ、リュミィ!?」
しかしすぐにずずずい、と詰め寄られ、ロディはその場で棒立ち状態になってしまった。怒った時に出現する“ブラックルミリエル”程ではないが、黒い雰囲気はそれに近いものを感じる。
「………………」
詰問されているわけではないが、無言の圧力がなおのこと怖く感じる。ロディはたまらず視線を逸らした。
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