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「それで、何があったの?」
窓際に移動する彼女の後を、ロディは帽子を被り直しながらついていく。
「ロディには、今の空がどのように見えますか?」
「そら?」
訊ねられ、ロディもルミリエルの隣から外を見てみる。
(どのようにと言われても、薄暗い雲が空を覆っているようにしか見えないんだけど……)
雨も降っているが、別段変わった様子は見受けられない。
その他には都を覆っている結界とそのさらに奥に微かに見える真っ黒い影。決して心地よいわけではないが、かといって気味が悪いかというとそういうわけでもない。日常の一部に染まっているためか、気づかないうちに神経のどこかを毒か何かに犯されでもしているのか、そんな感覚だ。
「雨、降ってるね」
「ロディ、ひょっとして私を馬鹿にしてます?」
「訊かれたから答えただけなのにそんな言い方する?」
「それではロディは、私がそのようなくだらないことを聞くために呼んだとでも思っているのですか?」
「いや、そうは思ってないけどさ。
リュミィの考えすぎじゃない? わたしには何も見えないんだけど」
「そうだといいのですが……」
「何を考えてるのかは分からないけどさ、リュミィはリュミィでやることがあるでしょ。
そっちはわたしたちの仕事」
再びノックがした。
『姫様、失礼致します』
声を聞いた途端、今度はロディが不機嫌になった。
そして、奴が入ってくるともっと不機嫌になった。
ロディと同じ獣耳獣尾。薄紫色の短髪に滅紫色──灰色がかった紫色──の瞳。筋肉質ではないが華奢というわけでもない、これまたロディと同じく銀甲冑に身を包んだ犬人族の青年──ゼロル=ブロド。
ロディとは騎士学校の同期生であり、卒業し騎士団に入団した時期も同じ。そのためか、奴はやたらと突っかかってくる。騎士学校時代にもいくらか剣を交えたことはある。だが、勝てばその数と同じ数だけ負け、敗れればその数と同じ数だけ勝つ。確率で言えば五分五分のやり合いだ。
“犬猿の仲”のような2人の“犬猫の仲”の関係は、騎士学校入学から数えて10年近く経過している今でも未だに続いている。
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