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キッチンでの甘いひとときはとりあえず一段落して、俺と伊織はリビングのソファで寛いでいた。
隣に座る伊織は俺の淹れたコーヒーを啜り、その左手は俺の右手にしっかりと繋がれている。
絡められた指の温度が心地好い。
俺は右利きだけど、コーヒーを飲むだけなら左手でも不自由することはない。
「……今日は、お前に紹介したい奴がいる。」
暫くして、伊織が口を開いた。
「【朱雀】の幹部だ。家の事情でずっと離れてたが、やっと戻ってこられるそうだ。」
淡々と話す伊織をそっと見上げると、伊織はどこか遠くを見ているような表情をしていた。
伊織はそんな俺の視線に気づくと、フッと微笑んだ。
「俺からも戻ってこれねぇか頼んでた。
…漣が抜けた穴を埋めなきゃならねぇからな。」
……『漣』
暫く聞くことがなかったその名前に、心の奥にしまっていた記憶が呼び起こされる。
漣の行いは、そう簡単に赦せるものではないけれど、【朱雀】を抜け俺たちの前から姿を消した彼を思うと胸が痛んだ。
「何を考えてる?」
隣から伊織の声がして、ハッと我に返る。
俺……漣のことを考えてトリップしてた。
「漣のこと、考えてたのか?」
「っ…」
…なんでそんなに鋭いんだろう。
俺ってそこまでわかりやすい顔してるのかな。
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