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「漣は【朱雀】にいるのを赦されないようなことをした。だから【朱雀】を抜けて正解だった。
お前が気に病む必要ない。」
「………」
伊織の、俺の手を握る手に力がこめられる。
まるで俺の中にある小さな後悔を消そうとするかのように。
───でも、俺がいたから。
俺が伊織の前に現れなければ、漣だって伊織を余計に苦しめるような真似はしなかった。
その事実が、漣を思い出すたび俺の心にのしかかる。
「漣を幹部に置いていたのは、アイツが【朱雀】に必要だったからじゃねぇ。」
「───えっ?」
唐突に告げられた事実に、俺はギョッとして伊織を凝視した。
伊織は俺の方を見ないまま、まっすぐ前を見つめている。
「俺が麗音を忘れることのねぇように……枷として側に置いた。それだけだ。」
「枷……」
「アイツもそれをわかってたし、そのつもりだった。」
それは、漣自らがそう言っていた。
漣が俺に、そう言ったのだ。
「ただ、それだけの為に【朱雀】に居たワケじゃあねぇ。アイツもアイツなりに、【朱雀】を守ろうとしていた。
【朱雀】は歴代の総長たちから今に至るまで受け継がれてきたモノだからな。」
伊織はそこで言葉を切り、フッと笑った。
その笑みがどこか自虐的に見えて───俺はコーヒーをテーブルに置くと、俺の手を握る伊織の左手にそっと空いている方の手を置いた。
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