ドールハウス

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 痛みもない世界だった。 俺の意識は造られた物だったのだ。 俺は元々 《ドールハウス》 の中に居たのだから。 極秘裏に造られたクローンだったのだ。 自分の意志で此処に居る。 そう植え付けるための映像を見せられていただけだったのだから。  《ドールハウス》 それはクローン型マネキン製作所だった。 俺は生かされていただけだった。 金持ちのご子息の内臓移植用クローンとして。 脳から神経に至るまで交換出来るように仕立てられた提供者だったのだ。  そして最後は人間剥製。 義眼に義歯。 植毛のための髪まで抜かれてカツラを付けられ…… 等身大フィギュアとして売られて行く。 俺の最期は…… これなのだろうか? 一体それは何時だったのだろうか? それとも本体が死を迎えた時なのだろうか?  でも、俺の場合は違っていた。 その資産家自体の提供者になれたのだ。 だからきっと資産家は長生きするはずだ。  でも俺は悪巧みをした。 あのワイングラスに毒を仕込んだんだ。 夾竹桃と言う花を知ってるかい? それはあの 《ドールハウス》 の脇で咲いていた花だった。 あの時折った枝から毒を抽出して、グラスの底に塗っておいたんだ。 俺が生かされても、他の誰かが生かされても地獄だと感じたからだ。 俺はこの 《ドールハウス》 自体を潰したくなったんだ。
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