第1章

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驚きを隠せない俺に、畑山が「でも、」と続けた。 「『いい旦那さん』って、言ってくれたのはありがとう。 私の中では最高のヒトなんだけど、この町は狭すぎるから………。 なかなか大変だったのよぉー、最初は!」 少し、憂うその顔にズキリ、胸が悲鳴を上げた。 ────そうか。 中年高校教師が町一番の美人生徒に手を出した。 遠い芸能人の「らしい」話より、断然盛り上がるに決まっている。 ふ、と脳裏に浮かぶ綿飴みたいなカオルの笑顔。 優しく包んであげたいと思うのに。 力を込めれば込めるほど、甘くふわり、溶けてしまう。 俺は…………。 「暗い」 「え?」 「冴島君やーだーぁー。 暗いわよぉー。 なんであなたがそんなに落ち込むのー」 畑山が、フルスイングで俺の肩を叩く。 「いてーよ、マジで」 考えごとしていたせいだろう。 真顔になった俺が落ち込んだと思ったのか、重めの平手打ちに顔がゆがむ。 「冴島は優しいんだよ、無口で無愛想でイケメンだけど」 「そうね、確かに無口で無愛想で背が高くてイケメンだわ」 「なんだそれ。褒めてないし」
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