第1章

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思い思いに料理をつまみながら、一息つく。 「お前はどうなの。なにしてんだっけ?」 「俺?俺はしがない公務員だよ。 可もなく不可もなく、平坦な毎日」 佐伯が刺身を口に含みながら、ため息混じりにそう言った。 「そう思えば高校の頃が一番楽しかったかもなぁ」 「そうねっ! 私もあそこが人生のモテ期ピークだったし」 うんうん、と畑山が、大きく頷く。 「だってすごくね? 友達でもそうじゃなくても、学校行けば約束なんてしてなくても会えてさー。 そりゃ会社も同じだけど、明らかな上下関係あって、友達ってわけじゃないし。 気ぃ遣って顔色見て……なんかしたことやかったぞ、俺」   「何しても楽しかったわよねぇ。 いいことばかりじゃなかったけど、あんなに喜怒哀楽剥き出しで過ごしたの、高校生の時だけじゃないかなぁ」 枝豆を弄びながら、畑山が遠い目をする。 「言えてる。 バカみたいな夢はいくつもあったけど、将来の不安なんてなかったし、責任をとらなきゃいけないことなんか、なかったよな。 嫌いだなんだ言っても、守られてたんだよな、親や教師に」 「………そうかもな」 校内ではしゃぎ回る生徒たちの姿が浮かび、自然と口元が緩む。 今しかできないこと、今しか経験できないこと。 全身で味わってるんだな、きっと。 「冴島君は、部活ざんまいだったの?」 「ん、まぁ」 「モテてたな、ムカつくくらい」 「よく言う。野球部キャプテンのお前に言われると嫌みでしかない」 苦笑いを返しながら、店員に生中をもう一杯頼む。
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