1 スリーハンドレッド・スプラッタ

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 ラッパの鳴る音。それは何かの合図なのか。 「な、なんだこれは?」  聞こえてきたのは、テントの並ぶ空き地よりも外側からだ。  一度ではなく、何度も。一箇所からではなく、バラバラの方向から。  まるで複数の集団が、音で連絡を取り合っているかのように。  ウキウ様達は馬車の外に降りて辺りを見回す。  周囲は夜の闇に包まれた、暗い森。  商人の部下達が立てた松明だけでは、全てを照らせない。 「何? 何が起こっているの?」 「心配要らない。俺がいるからな」 「う、うん」  マーニャは怯えて辺りを見回したが、クライアが決め顔で言うと安心したように頷く。  そこにモダウが走ってやってくる。 「おい、大丈夫か!」 「私は大丈夫ですお父様。今のところは……」 「マーニャ、おまえは馬車の中に隠れていなさい」  モダウはマーニャを馬車の荷台へと押し込む。 「怖いですわ」 「俺がついているよ」  クライアも一緒にあがって行ってしまう。モダウを守る気なのだろうか? 「あー。しかし、一人で大丈夫かね? 確かに娘は大事だが、荷物も大事なんだ。それに、戦力を分散するのはよくないと……」 「安心しろって。両方とも、俺が守ってやるからよ」  ウキウ様が言う。めんどくさそうな顔をしているが、これでも本気である。 「しかし、このラッパは何だ? 何が起こっている?」 「囲まれているようだな。相手は三百人の盗賊団だ」  ウキウ様が平然と言った。  事情を知らない者は、この暗闇の中、敵の姿を見てもいないのに数えたのか? と驚くだろう。  実際、ウキウ様が本気を出せばそれぐらいは可能かもしれない。だが今回は違う。最初から三百人だと知っていた。なぜなら……この山賊はウキウ様が集めたのだから。  商人達が最も恐れている事、それは護衛の裏切りである。よくわからない護衛を雇うと、ひどい目に会う事になるのだ。今回のように。
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