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1 スリーハンドレッド・スプラッタ
ここはどこにでもあるような中世ヨーロッパ的ファンタジー世界。
あえてもう一度言う。どこにでもあるような中世ヨーロッパ的ファンタジー世界だ。
そう、あのファンタジー世界。我らにとってのディストピアだ。
食べ物を食べたら腐っていたり、キノコを食べたら致死毒だったり、王都の裏路地を歩くと150%の確率で露出狂に遭遇したり、盗賊にリアルPKされたり、スライムに溶かされたり、バカな王様がうっかり伝説モンスターの封印解いたり、決闘したら剣が折れたり、モンスター倒して回っても経験値とかレベルとかなかったり、バナナの皮を踏んだら滑って転んで頭を打って死んだり、死んでも蘇生できなかったり、田舎の漁村が貧困にあえいでいたり、田舎の農村が貧困にあえいでいたり、登場人物全員が人間のクズだったりする我らの現実(ディストピア)。
みんな大好き、中世ヨーロッパ的ファンタジー世界!
そんな世界の片隅に一人の少年がいた。
ウキウ・ロシ・キミナゴ。歳は十代後半。簡素な皮鎧と布の服を着て、腰に長さ一メートルほどのロングソードを提げている黒髪の少年だ。
石造りの建物が立ち並ぶ王都、その端に建つ旅館の屋根の上で、腕組みして仁王立ちしている。
春のそよ風が前髪を揺らした。
「俺は、最強だ……」
ウキウ様は、自惚れのこもった声をもらした。
一度では飽き足らなかったのか、もう一度。今度は大声で叫ぶ。
「俺は、世界最強だぁっ!」
風が流れる。
どこかの街路の木の葉が揺れて、ザワザワなる音がして、それが聞こえなくなった頃にナナメ後ろから声がした。
「何を叫んでるんですか?」
呆れたように言うのは、ウキウ様の近くに体育座りしている少女。歳は十代前半だろうか? 痩せて小さな身体に肉のついていない細い腕と細い足。着ている物も、色落ちしてボロボロになった布の服だ。
しかし、何かのこだわりをもって清潔にしているのだろう。服に汚れは無く、顔や髪も綺麗だった。
少女はまだどこかに幼さを残すあどけない顔に、やるせなさに満ちた表情を浮かべている。それがウキウ様には気に入らなかったらしい。
「ただの事実だ。何が問題ある?」
「ああ、はい。そうですね」
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