序章

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 少女の名はシザメ・キタカタ。ウキウ様のナナメ後ろをついて歩くただ一人の従者だ。ウキウ様の最も近くにいる人間であり、ウキウ様を最も理解している人間でもある。  そんなシザメをウキウ様はバカにしたように笑う。 「シザメ。お前はいつも辛気臭そうな顔をしているな」 「そんな事ありませんよ」 「そうだな。上手い物を食った時だけは幸せそうな顔になる」 「そんな事もないと思いますけど……」  言いながらもシザメは両手を頬に当てる。本当に自分がそんな顔をしていないかどうか、確認しているのだろうか? 「かわいいやつだ」 「からかわないでくれますか」 「ほれ、ほれ」 「やめてください!」  ウキウ様はしばらくの間、シザメの頭を指でつついて遊んでから、言う。 「ともかく! この俺が世界最強な事には、誰も異論を挟まないだろう」 「そう思っているのはウキウ様だけですよ」 「なんだと?」 「……と、思いますけど」  自信がなかったのか、シザメの言葉も曖昧になる。  ウキウ様は首をひねる。 「うぬぬ。これはいけない。どうやら、俺が最強だという事実を全世界に認めさせる必要があるようだ。そのためには何をするべきだろうか」 「そんな事して何になるんですか?」  本気で不思議がるシザメを、ウキウ様は鼻で笑う。 「事実を流布するのに理由など必要ではない!」 「……事実でない上に、広めても恥ずかしい人と思われるだけですよ」  シザメはやんわり忠告するが、ウキウ様は考えを変えない。 「しかし、俺が最強である事を認めたがらない人間がいるようだぞ」 「そりゃあ、誰だって嫌ですよ、そんなの」 「小癪な奴らめ。どうすればいい? なぜ事実を認めたがらないのだ?」 「あの……」 「俺の強さを認めない者は自分が俺より強いと思っているのか。あるいは、俺より強い奴を知っていると言い張るのか?」 「そういう問題ではないくて……」 「すると俺は、それを否定して回らなければいけないわけだ。実際に戦って見せるのがいいだろうが……それでは手間も時間もかかるな。なにか手っ取り早い方法はないか?」 「ありませんよ」 「いや、何かあるはずだ。戦う……勝つ……殺す?」  絶対に解けないはずの狂った命題。だが、その程度で諦めるウキウ様ではない。
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