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ウキウ様の頭脳は、回転し、永劫の境地に達した。
常人では辿りつけない答えを導き出したのだ。
「つまり……全人類の抹殺!」
「やめてください! 頭がおかしい人と思われてしまいます!」
シザメは慌てて考え直させようとするが、この時点で既に手遅れだ。
地上を歩く通行人は、あいつ屋根に上って何をやっているんだ? という視線をウキウ様に向けた後、そそくさと立ち去っている。
「思われたからどうだというのだ。奴らは俺が最強であるという宇宙的事実を認めたがらないなど。頭がおかしいのはあいつらの方ではないか!」
「ウキウ様はそう思ってればいいかもしれないけど、私が困るんですよ」
「困る? 具体的にはどういう事だ? 何が相手でも俺が守ってやる」
相手が相手ならプロポーズとも受け取られない言葉を平然と吐くウキウに、シザメは一秒たりともときめかず、むしろガッカリしたようにため息をつく。
「それは無理だと思いますけどね」
「ん? どうしてだ。この俺に出来ない事があるというのか?」
「だってウキウ様、弱いじゃないですか」
これは衝撃的な評価かもしれなかった。
ウキウ様もよろめく。
「何を言うか。この俺は、人類最大の英雄として語り継がれるだけの価値があるというのに! そんな大物と気軽に話し合えることを幸福と思うがよい」
「……話し合えて幸福とか思ってる時点で、気軽じゃないですよね?」
シザメの指摘は、地味に痛い。ウキウ様は不満げに舌打ちする。
「口ばかり達者になりやがって。だったら俺のどこが弱いって言うんだ?」
「それを探そうともしないから、何時までたっても弱いままなんです」
「意味が分からん。おまえが間違っているのだ」
「……この人は、本当に困った人ですね」
ため息をつくシザメを差し置いて、ウキウは剣を抜いて高らかに宣言した。
「俺のやる事を阻める者など、この世界にはいないのだ!」
だがその直後、ウキウ様の行動を阻む者がやってきた。
旅館の主人である。
「ちょっとお客さん。屋根の上に上がるのは辞めてもらえませんかね?」
「ん? そんな事、泊まる時に注意されなかったと思うが?」
ウキウ様は平然と言い返す。
だが、一々注意されないのは当たり前だろう。頭が大丈夫な人はそんな事をしないのだから、本来は注意する必要がないのだ。
「じゃあ今言います。屋根から下りてください」
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