序章

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 このように、ウキウ様はどうしようもない人であった。  だが、私は大声で言おう。ウキウ様は、ある意味においては間違いなく、多くの人を死と絶望から救った救世主であると。また、私も命を救われた一人ではある。  それにも拘らず、そのウキウ様が英雄として称賛をうけることなく、人知れず消えてしまったのには、一言では語りきれない複雑な理由があるのだ。  その数奇な運命の痕跡を世に伝えるべく、私はウキウ様の足跡を辿って旅をして、多くの人間から話を聞き取り、ついにペンを取るに至ったのだ。そして書き上げられたのが、この物語である。  え? 私の正体が誰かって?  そんな事を気にしてはいけない。これはウキウ様の物語なのだから。私のような記録者はあくまで視点として振る舞い、変にでしゃばったりしないのが、本来のあるべき姿なのだ。  しかし、どうしても知りたいというのなら、想像してみるのもよいであろう。  例えば、なぜ私がウキウ様を様づけで呼んでいるのか、とか。いや、大した理由はないのだけれどね。
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