1 スリーハンドレッド・スプラッタ

4/15
前へ
/107ページ
次へ
「あら、下女が私をもてなすのは当然の事でしょう。城……いえ、屋敷ではみな進んでそうしてくださいましたわ」  そしてマーニャは、おほほほ、付け焼刃とは思えないような上品な笑顔を浮かべる。  これはどういう事なのか?  このは少女はモダウの娘だ。金持ちの子息かもしれないが、身分は平民のはず。  城に住んでいるわけがない。  それとも実際には違うのだろうか? 全ては嘘で、マーニャの正体は、旅のために身分を偽った王女……? いや、それはない。  ありえない。できの悪い物語じゃあるまいし。  万が一にもそれが真実だったら、ただの誘拐フラグだ。危険すぎる。 「よう、姫さん。ご機嫌はいかがかな?」  馬車の中にもう一人の剣士がやってくる。こちらは金髪の優男。クライア。  ウキウ様と同じく、モダウに雇われた剣士だ。 「あらクライアさん。私は元気ですわ」  マーニャはしなをつくる。ウキウ様が相手の時とは偉い違いだ。 「それはよかった。しかし、例え何が起ころうとも、私がお守りしますよ」 「嬉しいですわ」  何かピンク色の雰囲気を展開する二人。ウザイ。 「マーニャさん。そういう薄っぺらいセリフに反応したらいけませんよ。相手を付け上がらせるだけです」  空気に耐えられなくなったシザメが毒を吐く。 「……シザメ。もしかして俺に向かって言いたい事があるんじゃないか?」  ウキウ様がシザメを睨むと、シザメは落ち着いた口調で言う。 「違いますよ。私はマーニャさんに対する純粋な善意で言っているんです……」  すると今度は、クライアとマーニャが甘い言葉を紡ぎ始める。 「おいおい、俺の言葉は薄っぺらくなんかないだろう、ひどいなぁ」 「まったくですわ」  ここにはシザメの味方はいないようだ。 「そんなことより……前から疑問に思っていたのですけれど……」  マーニャはゆっくりとアゴに指を這わせる。とても可愛らしい仕草だ。自分が可愛いとよく知っているのだろう。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加