ハッシュヴァルト氏の災難

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石造りの街並みの一角に、ひっそりと店を構える老舗の喫茶店がある。窓の外を覗えば、今夜も絶え間なく星の雨が降り注いでいる。 ある老紳士が、その星空を左手に臨む席――彼の定位置だ――で広げた夜刊新聞から視線を離せずにいた。 注文したミッドナイト・ブレンドはすっかり冷めてしまっていた。 昨晩の事である。街では、降り積もった星の雨が一瞬で消え去ってしまうという奇妙な事件が起きていた。 普通ならば大騒ぎになっている所だろう。だが人々はそんな出来事さえすんなりと受け入れてしまう。 そう、この街にはあの大泥棒がいるのだから――。  
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