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"粋な泥棒"
そんな呼び名が付けられたのは、もう随分と前の――そう、高台の貴族の邸宅に植えられた深紅の薔薇が盗まれた時だ。
毎日その薔薇の手入れをしていたのは邸宅に住む御令嬢であり、彼女がこの事実を知った時、悲しみに暮れるであろう事は誰しも容易に想像出来た。だが周囲の心配をよそに、庭園に佇む彼女は驚くほどに輝かしい笑みを浮かべていた。
『"深紅"の薔薇 確かに頂戴致しました』
――粋な泥棒は人の心さえ容易く盗んでしまう。
彼女の見つめる先、深紅であるはずの庭園は、純白の薔薇によって埋め尽くされていた。
それからというもの、街の何処かで事件が起こるその度に、粋な泥棒という人物に魅了される人々は増えていった。
だからこそ今回、星の雨を盗んだのは彼であると、記事になる前からそんな確信めいた期待が寄せられていた。
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