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「珈琲、お注ぎしましょうか。」
頭上から声が落ちてくる。
いつの間にか隣に立っていたマスターが老紳士に問い掛けたが、彼の視線は新聞に向けられたままだ。不思議に思ったマスターも釣られて新聞へと目を向ける。
見出しにはこうあった。
『粋な泥棒 星の雨を盗む』
それは昨晩起きた事件の記事であり、何ら疑う事のないものだった。
視線を戻し、珈琲を注ぐためカップへと手を伸ばしたが、その時誰に言うでもなく老紳士が徐に口を開いた。
「……違う、星の雨を盗んだのはこの私だ。」
とてもか細い声だったが、この静かな店内にはそれはそれはよく響いた。その場にいた客の冷たい視線は、例外なく老紳士に突き刺さった。
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