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「俺さ、いつも思ってたんだ。 お前がいつか俺から離れていくんじゃねーか…ってさ。」 「…なんで?」 「いや、さっき自分で話してた事思い出してみろよ。 食べ物しか見えてないだろ? …だからだよ。」 怪訝そうに此方を見るミチル。 「怖くて怖くて、仕方なかった。 俺は、食い物でしか、お前を振り向かせられないんじゃないか…なんて、思ってさ。」 「…そんな事、ない…」 「ああ。 今、お前の話し方、それからお前の顔を見てて…そんなもん違うって、分かったよ。」 そうだ、違う。 ミチルは確かに食べ物の思い出話ばかりだったが、その中に登場する俺の動きは細かく語られた。 例えば、高級レストランの会計の時、俺がこっそり財布の中身を確認した事…とか。 ミチルは食い物に夢中で、絶対気付いてないと思っていたのに、だ。 「ミチル…俺は…」 嬉しそうに話す彼女の声、その笑顔、細かな仕草まで───“こうなって初めて”、本当の意味でそれらを失う恐怖を知ったのだ。 「俺は……お前が、好きだ。」 だから、 「ずっと…一緒に、居てくれ。」 震える声も堪えられず、情けなくも涙を止められず、彼女に伸ばすべきその手を挙げることさえできず、固く拳を握った。 「幽霊でも、なんだっていいんだ。 …俺は、お前が隣に居てくれるなら、それだけで…!」 「…キョウ、スケ…」 ずっと見ていたい彼女の顔を見るさえ、やはりできずに俯いていた。 そんな情けない俺の右手を包む感触…思わず顔を上げてみれば、涙で歪んだ視界の先に、俺の右手を両手で包みながら、同じく大粒の涙を零すミチルの姿があった。 「私も…ずっと居たいよ…?」 無理に笑顔を浮かべているからか、彼女の頬はこれでもかというほど引き攣っていて。 「ずっとずっと……キョウスケの隣で……大好きなキョウスケのぬくもりが、欲しいよ…」 「ッ…だったら…!」 「でもっ! だめなのッ!」 そうしろよ、と言いたかった…言いたかったが、彼女に遮られる形でその言葉は言えないまま─── 「もう、お別れ……だからッ…!」 ミチルの姿が、薄っすらと…ボヤけ始めた。
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