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キョウスケはそんな私の反応に何らかの確信を得たのか、ニマニマとその顔に笑みを刻む。
ついこの間までぶっきらぼうに無表情を貫いていた男とは、到底思えない表情である。
このままだと私だけ恥ずかしくなってしまう…それは何だか悔しいので、私も反撃に出る事にした。
「キョウスケこそ…ドッキリじゃないんでしょ? 私の事…何だっけ?」
「…っ……それ、卑怯だぞ。」
「どっちが卑怯なんだか。 こっちは怪我人よ? …心配しなくたって…ていうか、ヤダヤダって子供みたいにダダこねなくたって“何処にも行けない”わ。」
傷が痛むので笑う事はできないまでも、あの時の光景を含んだ言葉で口撃してみる。
「顔、真っ赤。」
「うるせ。 お前もだよ。」
キョウスケは頬を朱に染め、むすっとしたまま顔を背けた。
私は彼が此方を見てない隙を見計らって、目で捉えられる範囲だけど、この病室を見渡す。
よし、誰も居ない。
「ねえ。」
「…なんだよ。」
「あれが夢じゃないなら、も一度言って?」
「……。 言えるか、ばか。」
「ちぇっ」
冗談気味に返したけれど、少なからず期待していただけに内心残念でしょうがないけど……まぁ、普段のキョウスケを鑑みれば、その反応は当然だ。
「…好きだ。」
「……。 ッえっと、えっと…………その、私…も。」
予想外の言葉に戸惑いつつも、彼の言葉に私も応え───その瞬間、
「わぁ、二人がついに!」
ガラッと開いたドアの先、頬に両手をあてて驚愕の…しかし嬉しそうな表情を浮かべた私の友人の姿があった。
「ッお前いつから!」
「ついさっき! 二人とも、顔真っ赤だね♪ 可愛い♪」
「ぐー」
「お前は寝てるフリするな!」
「ん…これ、お腹の音。」
「マジかよ…」
気恥ずかしいながらも、しっかりと生きている事実への喜びと、新たな関係へ移り変わる期待に、私の胸は高鳴った。
実際鳴ったのは、お腹だけど。
って、これは蛇足ね。
とにかく、事故に遭って良かったなんて言えないけど、それでもこうして幼馴染としての壁を越えた───それだけは、素直に嬉しいと、心から思えた。
「…ま、からかわれたところで、俺の気持ちはなかった事にしねーけど。 勿論、お前が言った事も、だ。」
血圧上がり過ぎて、傷口が開くかもしれない。
END
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