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自分で言うのも何だけど、私はすごく食いしん坊だ。
房飾 美智瑠(ふさかざり みちる)という立派な名前を持ちながらも、友達から『ぼうしょくみちる(暴食満ちる)』と呼ばれてしまう程、食いしん坊だ。
ただ、若さ故かもしれないけれど、幾ら食べたって太らなかったし、幼馴染のアイツには「良く食うお前は、見てて気持ち良いよ。」なんて笑ってくれていたから、それを悪い事だとは思わなかった。
そう、“思わなかった”…と、過去形になってしまうのだけど。
(なんで…こうなるの)
泣き叫ぶ友達や、彼女を気の毒そうに遠巻きから見詰める野次馬の皆さん、その人集りをモーゼの様に掻き分けて現場へと向かう警察官。
救急隊員が慎重に運ぶソレを絶望の眼差しで見詰めるトラックの運ちゃん、タンカに乗ったソレは…真っ赤に染まった私───
そんな光景を、私はこうしてふわふわと浮かびながら、見守っているのだ。
要するに、死んだんだ、私。
確かに、突然の死に対する混乱だったり、未練だったり、虚無感だったりと、色々あるけど。
ただ、今はその死因となってしまった食いしん坊…そして死に際の一言だけが、悔やまれる。
だって、今泣き叫んでる友達…彼女は運動音痴だったのに、居眠り運転で横断歩道に突っ込んできたトラックを華麗に避けたのだ。
火事場のクソ力って奴だろう。
けれど、つい先ほどまで人気カフェのスィーツを、在庫の限り食べ尽くしていた馬鹿な女にだけは、そんな奇跡の力も面倒を見てはくれないらしい。
だからこそ、食いしん坊を悪い事だとは“思わなかった”…という訳であって、決して死んだから過去形になったって訳じゃないのよね。
そして最大の問題…死に際の一言。
まだ“あの体”に意識がある頃、私は泣きながら駆け寄る彼女に心配させじと笑って見せ、言ったのだ。
『なるほど、腹八分がベストってこういう事なのね。』
バカだ。
人生最期の言葉がこんなしょうもないものだなんて、それこそ死んでも死に切れないわ!
って、死んでるんだけどね。てへ。
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