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「さて、気を取り直していこう。」
キュー太は案外立ち直りが早いらしく、にこにこと爽やかな笑みを向けてきて、
「最期に一人だけ話せるとしたら、君は誰がいい?」
もう一度、最初の問いを投げかけてきた。
「…それ、は…」
やっぱりここで選ぶべきなのは父と母だろう…普通なら。
私だって二人には今まで育てて貰った感謝も、その沢山の愛情に応えられなかった事への謝罪も、言いたい事は尽きない。
けれど、けれど。
私の頭にはどうしても…どうしてもアイツの───キョウスケの顔が浮かぶんだ。
ぶっきらぼうに振舞っていても、私が困ると助けてくれたり、登下校に菓子パン奢ってくれたり、落ち込んでる時や泣いてる時は黙って頭を撫でてくれたり。
好き。
死んだからこそ、素直にそう思える。
伝えたいよ、それは、もう。
でも、私はもう死んでしまったのだし、それも未練以上の何者でもなく───
「話せるよ? ぼくの力を使えば、ね…? キョウスケ君で良いのかな?」
「えっ…」
「だからね、そう長くない時間なら、君の事を彼に見えるようにできる。」
「ほ、ほんとに…?」
「うん。 ほんとだよ。 …ただし、一人だけ…ね?」
さっきまでは暗闇の中を彷徨っている様な気分だったのに…霊体の私に心臓なんか有りはしないのに。
今はこの“手術中”が照らす光以上の輝きが目の前いっぱいに広がっている様な気がするし、ドクドクと鼓動が早鐘を鳴らしてる様な錯覚に陥っていた。
「話したい?」
「う、うん!」
事故からこれまで不自然な程に落ち着いていられたのは、きっと私が初めから絶望していたから。
でも、今は落ち着いてなんかいられない。
ささやかでも…それでも何よりも変え難い希望が見えたから。
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