第1章

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駅ビルの地階にある、通称「占い通り」に、僕のブースがある。 入り口の一番近くで、 “元ホストの占い師” “テレビで有名な” “日本タロット協会会員” “ヨーロッパタロットソサエティ推薦” などの看板で客足はまずまずだ。 しかし、 僕は、占いなど、勉強をしたことがない。 タロット占いは、たまたまブックオフで買った中古で、解説書を読んだだけだ。 あとは、“元ホスト”が示す通り、“見た目”と“話術”で占いをしている。 他の宣伝文句“日本タロット協会会員”やら“ヨーロッパタロットソサエティ推薦”は、全くのデタラメ。 テレビに出たのは本当。 でも、某大物芸能人の逆鱗に触れ、仕事を“干された”。 その後、ラジオのパーソナリティやAV男優や色々やって、 今はこの「占い通り」にブースを構えている。 「ふう」 メンソールのタバコに火を付け、溜め息と一緒に煙を吐く。 レースカーテンのように目の前に揺らめく赤い色の幕が、ゆっくりと晴れていく。 伊達メガネを外して、目をこすった。 ホスト時代に貰った自動巻き腕時計を見る。 午後10時をまわっていた。 そろそろ店閉まいしようと考えていると、ブースの入り口の硝子に人影が映った。 グレーのスーツの男性のようだった。 マジックミラーで、外からは磨り硝子のようだが、店内からは店先に立つ人物がはっきりと判る。 「……こいつで今日は終わりにすっか」 占いに頼る男性は大抵サラリーマンで、悩みは“仕事関係”か“不倫や浮気”が多いというのを同業者から聞いていた。 “ハングドマン”か“タワー”で脅して終わろう。 僕はタロットに細工をすると、「どうぞ」と声をかけた。
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