第1章

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「では、雄二さん……」 僕はファーストネームで語りかける。 “下の名前で話しかけて、親密性を現すと、友人に話し掛けるように、何でも話してくれる。占いに必要な「情報」をね” これも古参の占い師からの受け売りだ。 「悩み事や心配事を心で念じて下さい」 僕はタロットカードを適当にシャッフルして、テーブルの上で更にかき混ぜた。 「あの……聞かないんですか?」 「何を?」 男が僕の言葉にびくりとする。 「あの……私の悩みは何なのか……を」 僕は混ぜ合わせたカードをまとめて、山にすると、2つに分けた。 「聞きませんよ。雄二さんの悩みは、このカードに全て暗示されます」 僕はその2つの山に両手を重ねた。 「雄二さんから見て右側は未来の暗示。雄二さんから見て左側は、それを打開する方法の暗示です」 僕は男の顔を真っ直ぐに見た。 若い女性相手だと話をしながら情報を集め、その人が欲しがる情報をカードで現す方法を取るが、 僕は最も簡単で短時間勝負の“クローズド”で暗示したカードを男に解読させる方法を取った。 「僕がタロットを混ぜ合わせていた間、雄二さんが強く念じた結果が、今から開示するカードに暗示されています」 念が強ければ強いほど、カードは正確な未来とその打開策が暗示されます。 僕の目の前には色は落ちて来ない。 僕は嘘は言っていない。 カードを読み解くのはあなたですよと、真実を告げているだけだからだ。 ただし、 “未来”には“タワー”のタロット、 “打開策”は“ハングドマン”のタロットを仕込んだ。 悩み事がなんであれ、“未来”には災厄が暗示され、“打開策”は足掻いても無駄という暗示だ。 「さあ、開示しますよ」 僕は男が肩を落として6千円を払う姿を想像しながら、山から手を放した。
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