声を、私に聴かせて

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声を、私に聴かせて

母が亡くなった。 死因は間質性肺炎という難病で、最後は集中治療室で言葉も交わすこと無く看取った。 身内だけの葬儀だったが、母の知り合いが多数参列して、母の人柄が偲ばれた。 葬儀が一段落して、叔母が整理を手伝ってくれた。 「冬ちゃん、秋ちゃんの写真はここに入れとくね」 秋子が母の名前で、冬子が私だ。 秋に生まれたから秋子、冬に生まれたから冬子。単純である。 昔は冬という字が冷たく寂しい印象なので、ずいぶんと母に文句を言った。 私は母が、嫌いだった。 幼い頃に父を亡くし、女手ひとつで育ててもらった。 それなのに近親憎悪からか、思春期になると母を煙たがった。 「こんなに写真があるのね」 大量のアルバムに、生前の母の姿が写っていた。 母の知り合いから、遺影用の写真を用意していたと聞いた時には、悲しみと後ろめたさを感じた。 「あら、こんなにお守りや数珠ブレスレットがあるわ」 叔母は引き出しの中を覗いてつぶやいた。 「前はこんなの毛嫌いしていたのに、これも旦那さんが亡くなってからね」 「母にもそんな時期があったんですね」 これも母を嫌っていた原因だ。
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