声を、私に聴かせて

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母が亡くなり、心の重荷が取れた筈なのに、心に去来するのは後悔ばかりだ。 人は弱い生き物だ。死という抗えないものに、人は為す術がない。 お守りなんて大量生産された物にご利益は無い、と鼻で笑っていた。 それなのに、肉親の死に直面すると、祈ることしかできない。 肉親の死は、容易に人生感を変えてしまう。 「お母さん、ごめんね。もっと一緒に居れば良かったね」 頬を涙が流れた。葬儀では泣かなかったのに。 「お母さん、もう一度声を、私に聴かせて」 誰も居ない部屋に、返事を返す者は居なかった。 泣き疲れた私は、そのまま眠ってしまった。 翌日、目覚めた私はカセットデッキを見た。 テープが巻き戻っている。 何気に再生ボタンを押した。 『お母さん、ごめんね──』 私の声が録音されていた。昨夜、間違えて録音ボタンを押したのだ。 泣き疲れて眠った筈なのに、テープに微かな音が録音されていることに気が付いた。 それは鼻歌だった。抑揚のある微かなメロディ。 〈ふんふんふ~ふ~♪〉 そして、 『こちらへ、いらっしゃい』 はっきりとした声が聴こえた。 それは母の声だった。
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