37人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「コブクロ、好きなんですか?」
その声が自分に投げられたものだと、しばらく気がつかなかった。
数秒おいて左側を見たら、背の高い大学生くらいの男の子が、隣のカウンターの前で私ににっこりと笑った。
「今日も、この前もコブクロだった」
「あの……」
あなた、誰?と言おうとしたら
「チーズバーガーセットお待たせいたしました!」元気なスタッフの声にさえぎられた。
あ、とそちらを見た彼に、後ろから女の子が勢いよく飛びつく。
「シュウ、おっまたせー!」
「別に待ってない」
彼は私に「また」と言って、にっこりと笑った。そして紙袋を手に取ると、店の入口に向かって歩いていく。
女の子は私をうさんくさそうに振り返って見た。
「誰?あのおばさん」
「っるさいな。お客さんだよ……離れろって」
腕に絡みつく彼女を振り払いながら、彼がそう言うのが聞こえた。
お客さん……。
この街に来て7か月、知り合いはいない。馴染んでもいない。行きつけの店もない。せいぜいこのショッピングモールか、美容室か。
でもコブクロといったら……車?
あ、と私は思い出した。
今日はスタンドで洗車をした。たしかあの時にいた、色の白い男の子……?
最初のコメントを投稿しよう!