4667人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
陸は癖がついた髪を手櫛で整えながら、何か面白いものでも見つけたように、わたしの薬指を軽く噛んだ。
そして、上目遣いにわたしを見詰め、口元だけで笑みを作る。
「友香は、何も知らないんだよ、空のこと。
残念だけど、アイツは、友香が思っているような男じゃない」
「いい加減なことを言わないで。空のことなら知ってるわ。陸と違って、とても優しい人よ」
そう言って、陸の手から自分の右手を引き抜いた。
空は穏やかで、いつも笑顔を絶さないような優しい人だった。
わたしが間違ったことを言えば、然り気無く諭してくれて。
そんな空をわたしは、男性としても、一人の人間としても尊敬していた。
空の素性を知ったとき、この恋の結末は決して幸せなものでは無いと覚悟はしたけれど。
限られた時間の中でも、恋人として一緒にいられるのなら、それでもいいと思っていたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!