第1話

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    陸は癖がついた髪を手櫛で整えながら、何か面白いものでも見つけたように、わたしの薬指を軽く噛んだ。 そして、上目遣いにわたしを見詰め、口元だけで笑みを作る。 「友香は、何も知らないんだよ、空のこと。 残念だけど、アイツは、友香が思っているような男じゃない」 「いい加減なことを言わないで。空のことなら知ってるわ。陸と違って、とても優しい人よ」 そう言って、陸の手から自分の右手を引き抜いた。 空は穏やかで、いつも笑顔を絶さないような優しい人だった。 わたしが間違ったことを言えば、然り気無く諭してくれて。 そんな空をわたしは、男性としても、一人の人間としても尊敬していた。 空の素性を知ったとき、この恋の結末は決して幸せなものでは無いと覚悟はしたけれど。 限られた時間の中でも、恋人として一緒にいられるのなら、それでもいいと思っていたのだ。
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