月見酒 1

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「だけど消防司令補のままって訳じゃないでしょ?消防司令へ昇級目指さないんですか?」 『……司令にまでなっちまうと管理職にもなっちまうからよ。司令補が丁度なんだがなぁ』 「やはり…隼人さんには現場が合うと私も思います」 壱の糞真面目な声に顔を上げるとクツリと喉が鳴った。 『司令には勇さんも朱理さんも昇ってんだ。エリートコースはアイツらみてぇのが似合いだと思うぜ』 「近藤さんが署長だったらなぁ…楽しみですね!」 『まだまだ早ぇわ馬鹿野郎』 消防官の階級には10ある。 下から… 消防士 消防副士長 消防士長 消防司令補 消防司令 消防司令長 消防監 消防正監 消防司監 消防総監 と…まぁ、あるが。 『現場に出るなら司令がギリ…同じ司令補の山南は昇級目指すだろうが…俺はまだ勉強したくねぇわ』 「アハッ!隼人さんも勉強嫌いですもんね!私と一緒!」 『やっぱ昇級目指すか』 「ええッ!?」 俺は馬鹿な惣と違って頭は良い方だと自負してるが…面倒臭ぇだけだ、とは言わず我慢してやった。 「でもまぁさ?大概の消防官は消防司令補で定年を迎えるって聞くし…」 『栄志…お前もう定年考えてるのかよ』 「アハハ!まさか。じゃあもしかすると何時か、俺が隼人さんより昇級して命令出来るかなって楽しみに―」 『俺は何がなんでも…テメェの上を死守してやらぁ…』 「ええ~?だったら消防総監にならなきゃですよ?」 『なれるか!総監は1人だぞ!テメェはどこまで昇りてぇんだよ全く…』 可笑しそうに笑う餓鬼共にこれ以上付き合ってらんねぇ。 『つかビール…』 まだ一口も呑んでねぇし! グラスを持つとそこにある汗が時間の経過を物語ってやがる。 『…』 駄目だ。 『おい壱よ。やっぱ瓶ビールはオッサン臭ぇだろ…ぬるくなるのも早ぇし』 「すみません…注ぐのが何だか飲み会っぽく思い…つい頼んでしまいます」 『…悪ぃが焼酎頼んでくれ』 「はい。龍馬のロックでよろしいですか?」 『ああ』 ぬるくなったグラスビールは…永倉のジョッキに注いだ。 「龍馬お待っとうはん!」 『…茅乃さん、悠伍郎は』 「店長?今外に―」 ガララッ 「やぁやぁ。やってるねぇ」 『ッ!』 「ひゃは!財布が来たぜぇ!」 「え、財布…僕?」 「ふふッ…お兄ちゃんてばまたお財布なん?」 「ハハ…何時もの事だけどさ」 目が、合う―…
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