月見酒 1

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悠伍郎に指を差された俺の隣を見て頷き、椅子の背凭れを引いた。 『ちゃんと届くか?』 煙草を灰皿に押し付けながら、糞真面目に聞いてやる。 「…もう。また」 少し…ムゥッとした顔に苦笑しつつ左手を差し出してやった。 『ん。ほら』 「ッ…い、何時も何時もお手数お掛けします…」 『…飛んでもありません。何時でもどうぞ』 俺がそう言えばニコリと笑い、ソッと小さな手を重ねて来る。 「よっこいしょ…」 『フッ…ご苦労さん』 カウンターの椅子は高く、小柄過ぎるリアには座り難いんだろうが。 『よっこいしょってよ…相変わらず―』 「ま、またゆうてました?」 ハッと口を押さえた事によって離れた手。 『ガッツリな』 「あぁ…あかん…」 『別に良いじゃねぇか』 何故とは言わんが。 「ハハ。リアは最近女子力向上目指しとんねんもんな?はい、お茶熱いさかい気ぃ付けや?」 「ゆ、悠さん」 慌てるリアをクスと笑い、軽く頭を撫で…ごゆっくり~と俺達の前から消えた。 『女子力向上?何だそりゃ?』 「べッ…べべ別に何でも無いであります…」 『…そうでありますか。女子力ダウン』 「えッ!?」 キョロキョロしてた大きな瞳が更に大きく見開かれた。 あぁ… 『フッ…冗談。つかお前…それ以上女子力上げてどうすんだ』 「え…」 『充分、足りてるだろ』 「!?ッめ、滅相もありません!ウチなんか皆に比べたら―」 『皆ってのは?』 「う?そ、それはお姉ちゃんや茅乃さんや百合ちゃんとか…」 『百合…花屋のか。とか?』 「こ、寿ちゃんとか!」 『ことほぎ…あぁ…先月花屋に来たってぇヤツだった…か?』 「はい。んもう…隼人さんてばウチ寿ちゃんの話、何回もしてるのにまだ名前すんなり思い出してくやはらへん」 『ゆ、百合は覚えたろ』 「…ほんまに聞いてくれてはります―…あッ…ウチの話し方がやっぱり面白ないんと―」 『馬鹿。違ぇわ。俺は興味ねぇ人間の名前なんざ覚えねぇ主義なんだよ』 「…興味…が…」 興味なくとも覚えなけりゃあ…なんねぇ時のが圧倒的多数だが 『ソイツとは…もう仲良しさんなのか?』 「はいッ!」 パアァッと、嬉しそうに輝いた顔に緩く口元が上がる。 『そいつぁ…良かった』 「ッ」 ポンと一つ、頭を撫でると首を竦め擽ったそうに笑った。 「…―もうウチは…なんぼ程…苛められても負けません…」
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