第21話 生徒会長選挙

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「そうね。中には不純な動機で立候補する生徒もいるでしょうからね」 「まあ、そういう生徒を有権者に見定めてもらうために選挙演説をやってるんだけどね」  朋美は昼間の一樹がまだ許せないでいた。克己はキャビネからファイルを一つ取り出して、朋美の前に開いた。 「これが、その五人の公約書なんだ。これを出すのが立候補の条件になっているからね」  朋美はファイルされた公約書を捲ってみた。 「それで、誰が一番まともだと有沢くんは思ってるの?」 「そうだね。今回の立候補者は四人が三年生で、一人だけ二年生がいるんだ。この蜷川庄司君だけどね。彼は二年生なのにしっかりした公約を出しているんだ。僕はこの学校改革に熱意を持っている蜷川君が一番良いと思うんだけどね」 「そうなの。二年生なのに学校のことを大事に思ってるのね。誰かさんとは大違いね」  そう言って、朋美は一樹の公約書を斜め読みした。それは余り印象に残らないありきたりの内容だと朋美は思った。柱の時計はすでに午後七時を回っていた。 「もう遅くなったから、そろそろ帰る支度をしようか」  克己の言葉に、朋美は頷いた。朋美は希望していた予備費の増額とチアガール同好会の部昇格が今度の予算案に盛り込まれたので、肩の荷が下りたような気がした。因みに、予備費増額は野球部が甲子園出場となった場合の、応援部隊も含めた旅費に使われることを想定していた。  校舎を出ると、すっかり日が落ちておまけに雨が降っていた。 「お昼は晴れてたのに、梅雨時はほんとに油断できないわ」  そう言って、朋美は持っていた傘を広げた。克己は傘を持っていなかった。 「有沢くん、途中までわたしの傘に入って」 「ありがとう、川木田さん。うちは商店街の裏だから助かるよ」
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